中小企業診断士Mです。
突然ですが、貴社は、いくつの金融機関とお付き合いしていますか? 中小企業の場合(注)、二桁の金融機関と取引しているようであれば、明らかに多すぎます。一桁、それも3~4位に絞り込むのが理想です。
(注)何百億円、何千億円単位で資金調達が必要な大企業は、話が別です。
1. 複数行取引のメリットとデメリット
日本では、複数の金融機関から借入を行うのが金融慣行となっています。2007年版中小企業白書(注)によれば、都市部、郡部に立地する中小企業の取引金融機関数の平均値は、それぞれ6.65行、4.80行だそうです。白書のデータは古いのですが、今でも平均値はそれほど変わっていないでしょう。むしろ増えているかもしれません。
(注)出所https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/h19/h19_hakusho/html/j2320000.html
企業業績が順調な時、経済情勢が平時であれば、資金需要も旺盛であり、資金調達には複数行取引の方が有利です(但し、2007年版中小企業白書では、複数行取引により資金調達が容易になるため、借入依存度も高くなると指摘しています)。
しかし、企業業績が低迷している時、今のように経済情勢が悪化している時には、複数行取引のデメリットが強くなります。どういうことが起きるかというと、
- 企業業績が悪化すると、金融機関の融資姿勢が厳しくなる。
- 下位行や取引歴の浅い金融機関は、企業を支える意識が乏しいので、遠慮なく返済を求めてくる。つまり、逃げ足が早い。
- 取引金融機関数が多いと、シェアが分散しているので、どこがメインバンクなのかはっきりしなくなる。だから、企業を支える旗振り役が不在になる。どこも下位行の借入を肩代わりしてくれない。
- 金融機関の協調が崩れ、一層返済圧力が強まる。本業に集中できなくなる。
このような負のスパイラルが起こるのです。
そこで、金融機関の協力を求めるために、中小企業再生支援協議会のような公的機関に調整をお願いすると、「複数の債権者間の調整、抜本的な財務リストラ、債務免除などの複雑な調整を要する再生支援業務が発生する」ことになり(2007年版中小企業白書)、経営者にとっても、金融機関にとっても、大きな痛みを伴うことになります。事業再生のプロセスにおいて、ボトルネックは、経営者の意識改革と、金融機関調整ですが、複数行取引は金融機関調整における大きな障害となります。
破綻企業の特徴として、取引金融機関の数が多すぎることを(経験的には二桁)、筆者の経験上、よく見てきました。取引金融機関が多すぎると、カネを借りすぎて財務内容が悪化し、業績低迷時の金融機関調整がうまく行かず、破綻に至るのだ考えます。
2. 取引金融機関の構成をどうするか?
意外でしょうが、米国では一行取引が中心なのです。2007年版中小企業白書では、従業員100~499名の比較的規模の大きい中小企業でも、一行取引の割合が8割以上です。米銀はドライな印象を受けますが、実態は中小企業と密接なコミュニケーションを取っているそうです。むしろ、邦銀の方が対応がドライでしょう。
金融機関の破綻リスクを考えると(コロナ禍の影響で、破綻する金融機関が今後出てくるでしょう)、米国のように一行取引を採用するのはリスクがありますが、3~4つ位の金融機関と取引するのが、理想と考えます。これくらいの数ですと、コミュニケーションを取りやすく、信頼関係と安定的な支援体制の構築に繋がります。
この点に関し、㈱武蔵野代表の小山昇氏が以下のようにアドバイスされています(2019年12月17日付 PRESIDENT Online記事)。経営者の視点・経験を踏まえた的確なご意見だと思います。
「中小企業の場合、「都市銀行1、地方銀行1、信用金庫1、政府系金融機関1」が基本です。あとは、自社の規模や地域における金融機関の数に応じて、増やしていけばいい。売上が5億円以下の会社なら、都銀は1行で十分。売上が1億~2億円の会社なら、地銀がメインでいい」
「3行から融資を受けるなら、1行からたくさん借りず、バランスよく借入れる。メインバンクからの借入れは、多くても55%以内、私の経験上、35%が適正です」 以上