社長の金庫番

中小企業診断士の資格を持つ経営コンサルタントMがお金にまつわる知識や情報を発信していきます

法人口座の開設方法(その1)

 こんにちは。中小企業診断士Mです。

 

 法人(例えば、株式会社や合同会社など)を設立する場合、あるいは、既に設立している場合でも、お金を決済するために銀行口座が必要になります。すべてを現金で決済するには、実務的に無理があります。

 

 ところが、個人と違って、法人が金融機関に口座を開設するのは、手続きが面倒ですし、金融機関の審査が厳しいことをご経験されませんでしたか? 今回のブログでは、4回に分けて、①なぜ、審査が厳しいのか?、②金融機関の審査ポイント三つ(反社会的勢力のチェック、事業実態の確認、代表者の経歴)、ついてお話ししていきます。

 

1. なぜ、金融機関は法人口座開設の審査が厳しいのか?

 それは、不正口座の開設を阻止するためです。不正口座とは、見に覚えのない不審請求、不当(違法)請求、振り込め詐欺還付金詐欺ヤミ金融業者関与等、犯罪性・反社会性の高い目的に受取口座として使用される口座、または使用される恐れのある口座をいいます。全国銀行協会は、警察庁からの要請を受けて、金融犯罪防止の観点から法人口座開設時の審査の厳格化に関する通達を発信し、各銀行は厳正化対応に努めてきました。

 

 尚、銀行口座を買う側、売る側とも罪になります。売買された口座は、振り込め詐欺資金洗浄、ネットショッピング詐欺など、さまざまな犯罪に悪用される危険があります。

 

2. 犯罪収益移転防止法と会社法

 金融機関が法人口座開設の審査に厳しい背景には、二つの法律の存在があります。一つは犯罪収益移転防止法(正式名称:「犯罪による収益の移転防止に関する法律」)、もう一つは会社法です。

 

(1) 犯罪収益移転防止法

 金融機関による本人確認が厳格なのは、この法律によるものです。経緯は後述の通りで、もともとは「本人確認法」だったのですが、何度も法改正され、現在の「犯罪収益移転防止法」に形を変え、どんどん厳しくなっています。世界的な時代の流れによるものです。

 

① 麻薬をはじめとする犯罪の資金洗浄を防止し、捜査機関による捜査のために取引記録等を作成・保存することを求める「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」に対応して、口座開設等に際して「本人確認」の実施・記録・保存を義務づける「本人確認法」が2002年に制定。

 

② その後日本では、振り込め詐欺が社会問題化したため、他人に成りすましての口座開設や口座譲渡に関する罰則を設け、「本人確認法」は2004年に改正。

 

③ 2001年9月の米国同時多発テロ事件を受け、2006年には更に、「テロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約」に基づき確認を強化するよう「本人確認法」は改正。

 

⓸ この「本人確認法」の規制対象を金融機関以外(不動産・貴金属・宝石等取扱業者等)へも拡大し、関連する他の法律と再編したものが2007年制定の「犯罪収益移転防止法」に至る。

 

(2) 会社法

 会社法が不正口座開設防止と何の関係があるのか?、と疑問を持たれたかと思いますが、こういうことです。

 

 2006年5月に施行された会社法で、法人に関する規制が緩和されました。特に、3つの規制緩和(最低資本金規制撤廃、払込保管証明撤廃、類似商号規制撤廃)により、会社設立が極めて容易になり、事業実態が備わっていなくとも会社設立が可能になりました。そのため、犯罪を企図している者が、これを逆手にとって会社を設立したことから、投資詐欺が蔓延する等、法人口座の不正利用が増加したのです。

 

 【会社法の主な改正点】

項目 2006年5月以前 会社法施行以降
最低資本金規制

株式会社:1000万円

有限会社: 300万円

撤廃
払込金保管証明 株式払込事務を受託した金融機関の発行する証明書を設立登記時に提出 発起設立の場合、発起人口座に資本金相当額の払込を実施し、通帳コピーを提出することで登記可
類似商号規制 同一市町村内での類似商号は不可 同一市町村内での類似商号は可

                    以 上