1. その長期借入金が資金繰りを悪化させる
借入金には、短期借入と長期借入の2種類があります。
短期借入とは、1年以内に返済する借入金。手形貸付や当座貸越があります。通常の返済方法は、期日一括返済方式です。事業が継続されていれば、期日に継続されます。
一方、長期借入とは、1年以上かけて返済していき借入金で、証書貸付が代表的です。通常は分割返済方式です。
本来は、期日一括返済の短期借入で調達すべきところを、分割返済方式の長期借入で調達してしまい、資金繰りを悪化させているケースがよく見られます。もし、長期借入の約定返済ができなくなると、リスケに移行し、不良債権に分類され、ニューマネーを調達できなくなる事態に発展します。
今回のブログでは、①なぜ長期で借りてしまうのか、を説明し、その上で、②長期借入を短期借入にシフトし、長短バランスを是正することをご提案いたします。
2. 歪な日本の融資構造
大和総研の調べ(注)によりますと、1980年代までは、証書貸付(≒長期貸付)と手形貸付(≒短期貸付)はほぼ同額だったが、足下では貸出残高の9割近くが証書貸付(≒長期貸付)となっています。これは驚くべき数字です。
日本全体の融資構造は、今や、法人企業の借入の大半が長期となっており、融資構造に大きな歪みが生じています。
(注)2018年2月21日付「銀行の貸出種類別貸出の構造変化」→下表をご参照
3. 資金繰りの大原則
- 短期資金(運転資金)は短期借入金で調達。
- 長期資金(設備資金)は長期借入金や自己資本によって調達。
これが資金繰りの大原則です。
企業が事業活動を行う際は、運転資金が必要になります。商品を販売した場合、販売代金の入金までタイムラグがあります。仕入れたからすぐ販売できるわけではありません。半製品や在庫が資金化されるまで、時間がかかります。
仕入が発生した時にカネを借りて、販売代金が入金した時にカネを返す、これが運転資金借入の原則です。これの繰り返しです。運転資金は、事業が継続していれば、一定残高が継続的に発生します。ですので、経常運転資金(継続的に発生する運転資金)の範囲内で期限が来れば同額で延長される「短期継続融資」(所謂「ころがし融資」「根雪融資」)でも、理論上成り立ちます。企業が清算されるまで、運転資金は全額返済になりません。
経常運転資金(継続的に発生する運転資金)は、返済不要な自己資本で賄えれば理想ですが、上場していない中小企業の場合、それは難しい。その解決手段が、「短期継続融資」です。このことから、「短期継続融資」は、事実上の自己資本=疑似エクイティと呼ばれています。
4. なぜ長期借入(証書貸付)が増えたのか?
なぜ長期借入(証書貸付)が増えたのか? これには、金融機関側と企業側に双方の要因があります。ただ、実態は、後述の通り、金融機関側の自己都合によるところが大です。
(1) 金融機関(貸し手)側の要因
①金融検査マニュアル
2002 年に改定された金融検査マニュアル別冊(中小企業編)に、「正常運転資金の範囲を超える部分の短期継続融資を不良債権と判断する事例」が盛り込まれました。これに過剰反応した金融機関が、不良債権に分類され引当金を積むことを回避するために、長期融資へシフトを進めました。
これを問題視した金融庁は、下記のように、2015年に金融検査マニュアルを改訂しました。
- 正常運転資金に対して、「短期継続融資」で対応することは何ら問題ない。
- 「短期継続融資」は、無担保、無保証の短期融資で債務者の資金ニーズに応需し、書替え時には、債務者の業況や実態を適切に把握してその継続の是非を判断するため、金融機関が目利き力を発揮するための融資の一手法となり得る。
②信用保証制度
更に、長期融資へシフトを助長したのが、信用保証制度のフリーライドでした。金融機関にとって、短期融資を長期融資へシフトするのは、「期限の利益」を企業に与えるため、リスクがあります。「期限の利益」とは、一定の期限が到来するまで弁済(支払い)をしなくてもよい、という債務者の利益をいいます。「期限の利益」に伴うリスクをヘッジするために利用されたのが、信用保証制度でした。信用保証協会の審査が通れば融資実行という、信用保証協会へ丸投げする金融機関が続出し、貸倒れリスクを信用保証協会へ転嫁する事態が横行したのです(しかも、保証料は企業側の負担)。
(2) 企業側(借り手)の要因
企業側にとって、長期で借り入れることのメリットは、「期限の利益」が得られることです。約定返済を履行していれば、期限まで(例えば、3年先、5年先まで)完済しなくてもいいのです。
一方、短期で借りると、期日に金融機関から一括返済を求められる不安があります。金融機関に言われるがままに長期で借りているケースも多いでしょう。何となく長期借入の方が安心感があるように思われがちですが、約定返済が日々の資金繰りを悪化させていることに気付いていない社長さんが多いのです。
5. 長短借入のバランス是正を提案
正常運転資金に対して、短期継続融資で対応することは何ら問題ない」と金融庁は明言しています。正常運転資金は企業の業況や事業実態によって、その範囲は異なりますが、一般的に、卸・小売業、製造業の場合、「売上債権+棚卸資産-仕 入債務」になります。この正常運転資金の範囲内で長期借入をしているのならば、短期継続融資へのシフトによって資金繰りを改善することをご提案します。正常運転資金が対象であれば、金融機関は無担保・無保証で貸せるのです。
短期継続融資へシフトするためには、二つのことを用意しなければなりません。
(1) ドンブリ勘定からの脱却
長期借入金としてまとまった資金が入金されると、いつの間にか、本来の運転資金以外に、諸経費支払、納税資金、賞与資金、資産購入資金、修繕資金、設備資金へと流れてしまい、ドンブリ勘定となってしまいがちです。
運転資金は運転資金として調達するよう、資金使途と返済原資を紐付きで管理せねばなりません。仕入先はどこで、仕入金額はいくらか(いくら借りる必要があるか)、販売先はどこで、販売金額はいくらか(返済原資があるか)、資金化できるのはいつか(いつ返済できるか)、などを日頃から管理できるようにしなければなりません。
(2) リレバン銀行と付き合っているか
企業の事業実態、カネの流れ、商流などを把握している金融機関でなければ、短期継続融資を実現できません。このような金融機関は、「経営者を見て、事業を見て、カネを貸す」「雨が降ってら傘を貸す」「経済合理性だけで逃げない」という特長を持っています。筆者はこのような金融機関を「リレバン銀行」と呼んでいます。
保証協会の保証を第一に勧めてくる、無闇やたらと担保を要求するような金融機関は、企業業績が悪化するとすぐ貸出をストップし、手のひらをすぐ返します。
企業経営者には、リレバン銀行を見極める眼力を養う必要があります。
以 上