社長の金庫番

中小企業診断士の資格を持つ経営コンサルタントMがお金にまつわる知識や情報を発信していきます

ニューマネーか、リスケか

 中小企業診断士Mです。

 

 以前、資金繰り表は、「経常収支」「経常外収支」「財務収支」の3段構造になっていると説明しました。今回は、「財務収支」の改善方法についてお話したいと思います。

 

 1. ニューマネーとリスケ

  「財務収支」とは、主に借入金の調達と返済のことを指します。「財務収支」の改善方法としては、預金の取り崩しができれば良いのですが、そのような余裕がない場合には、金融機関から新規に資金を調達するか(ニューマネー)、いまある借入金の返済を金融機関に猶予してもらうか(リスケジュール、略してリスケ)、主に二つの方法があります。

 

 2. 中小企業金融円滑化法

 かつて金融機関はリスケに対して極めて消極的でした。なぜなら、リスケはカネが回らなくなるから要請されるのであって、延滞と同義であり、延滞イコール破綻懸念がある先と考えられていたからです。ところが、リーマンショックにより資金繰りに苦しむ中小企業対策のために、「中小企業金融円滑化法」(正式名称は「中小企業者に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律」)が平成21年に施行されて以降、リスケのハードルが格段に下がりました。この法律は、債務者から貸出条件の変更等の申し込みがあった場合、金融機関が応じる努力義務が定められており、その努力状況を監視するために金融庁が金融機関に対して各種報告を求めていました。

 「中小企業金融円滑化法」はもともと時限立法だったため、平成25年に終了しましたが、その精神は継承されてきました。そして、今回のコロナ危機発生に接し、金融庁は、平成31年3月期で休止していた(廃止ではない)「リスケ報告」(リスケの申込、実行、謝絶件数の報告)を復活させ、金融機関へのプレッシャーを強めています。

 

3. ニューマネーとリスケの比較検討

 ニューマネーがいいのか、リスケがいいのか、どちらもメリット・デメリットがあり、一概に決められませんが、下表の通り一般論として整理してみました。

      メリット     デメリット
ニューマネー

・真水資金を調達でき、現預金が増える

・格付を維持できる

・金融機関承認のハードルが高い

・借金が増え、常に返済負担に追われる

リスケ

・金融機関承認のハードルが低い

・返済の心配が当面なくなる

・リスケ後、金融機関からニューマネー調達が難しくなる

・格下げになる(※)

(※)事業再計画がある、あるいは計画策定の見込みがあれば、格下げにならないとする救済措置がありますが、「正常先」(業績・財務内容とも問題のない債務者)を維持するのは難しくなり、「問題先」(「不良債権」+「不良債権予備軍」)に分類されるのが通常です。 

 

 ここで注意しなければいけないことは、ニューマネーとリスケは両立が難しいということです。どういうことかと言いますと、金融機関の立場からすると、いいとこ取りはさせない、二者択一ということです。

 

① リスケをした後に、ニューマネーの貸出(追加融資)は金融機関が基本的に認めない

 リスケするということは、放っておくと延滞になるところを、金融機関が返済猶予を認めたことを意味するのであって、本来は資金繰りが危ない会社とのレッテルが貼られます。そのような会社に対して、金融機関は追加融資ができないという理屈です。

 

② ニューマネーを調達した後に、リスケを要請すると、金融機関を怒らせる

 ニューマネーは本来返してもらう約束で貸したおカネなのに、借りた後で返済猶予を頼むのは、だまし討ちだという理屈です。ニューマネー調達からリスケ要請まである程度時間が経過していれば、話は別ですが、半年も経過していなければ、取引金融機関ともめる可能性大です。

 

 ニューマネーか、リスケか、どちらがいいのかはケースバイケースですが、足元の現預金残高がどの程度残っているかが、重要な判断基準となります。足元の現預金残高に余裕があればリスケ、余裕がなければニューマネーを選択するのが一般的な考え方です。筆者の経験では、追加融資を受けられなくても、返済負担から解放されるメリットは大きく、現預金に余力がある段階で早め早めのリスケ移行により資金繰りを安定化させるのが、功を奏するケースが多いように思われます。

 

 但し、どちらを選択するにせよ、経常収支(本業の資金繰り)が回っていなければ、経常収支の赤字を財務収支で補填しなければならず、いずれ全体の資金繰りが回らなくなります。経常支出を抑える努力は続けなければなりません。

 

4. メインバンクの姿勢

 以上が平時の実務ですが、企業努力では如何ともし難い経済危機が生じている現在の有事(戦時と言っても過言ではない)では、ニューマネーとリスケを同時に実行するような踏み込んだ資金繰り支援が必要になってくると考えます。それは、取引金融機関(特にメインバンク)の姿勢にかかっています。付き合っているメインバンクがどこか、メインバンクとは信頼関係が構築できているかが、ポイントとなります。間接金融に依存せざるを得ない中小企業にとっては、どこの金融機関と取引するかが、死活問題になり得るため、重要な経営課題となります。

                                      以 上