社長の金庫番

中小企業診断士の資格を持つ経営コンサルタントMがお金にまつわる知識や情報を発信していきます

メインバンクの選び方 ~リレバンとトラバン~

 中小企業診断士Mです。

 

 中小企業の資金調達は、直接金融(株式、社債等)が難しいため、間接金融(銀行借入)に依存せざるを得ません。どの銀行と取引するか、特に、どこをメインバンクにするかは、重要な経営課題です。

 

1. メインバンクとは?

 メインバンクに決まった定義はありません。一般的には、借入シェアが一番大きい銀行がメインバンクと言えます。それに加えて、銀行から人材を派遣している、融資の他に銀行が出資している(出資比率規制はありますが)、といった事象があれば、自他ともに認められるメインバンクといえるでしょう。

 客観的な事象も大切ですが、企業と銀行が相互に信頼関係があり、相互にメインバンクであるとの認識を共有していることも重要です。企業はメインバンクと思っているが、銀行はそうは思っていない、あるいはその逆といったケースはままあります。時間をかけてリレーションを構築しながら、メインバンクが作られるのであって、一朝一夕には出来ません。

 

2. 企業がメインバンクに求めるもの

 企業がメインバンクに求めるものは何でしょうか? 平成28年5月23日の金融庁の調査結果(※)によれば、「融資の金利条件」よりも、「事業に対する理解」や「融資スタンス」、「長年の付き合いと信頼関係」が上位の項目に挙げられています。筆者なりに解釈すると、「経営者を見て、事業を見て、カネを貸す」「雨が降ったら傘を貸す」のが、頼れるメインバンクではないでしょうか。

 (※)https://www.fsa.go.jp/policy/chuukai/shiryou/questionnaire/160620/01.pdf

 

3. リレバンとトラバン

 では、「経営者を見て、事業を見て、カネを貸す」「雨が降ったら傘を貸す」頼れる銀行を、どのように見極めればよいのでしょうか?

 それを考える上で、リレーションシップバンキング(略してリレバン)と、その対照の概念であるトランザクションバンキング(略してトラバン)と比較してご説明します。リレバンとトラバンは、銀行の取引姿勢を見る上で、頭の整理に便利な概念です。

 

リレーションシップバンキング

 リレーションシップバンキングは、「事業者との関係性(リレーションシップrelationship)への融資」、と訳すことができます。金融庁は、「長期継続する関係の中から、借り手企業の経営者の資質や事業の将来性等についての情報を得て、融資を実行するビジネスモデル」と定義しています。 

 

トランザクションバンキング

 トランザクションバンキングは、「個々の具体的取引(トランザクションtransaction)に対する融資」、と訳すことができます。金融庁は、「個々の取引ごとの採算性を重視する銀行経営手法であり、貸出に当たっては財務諸表や 客観的に算出されるクレジットスコアといった定量的な指標を重視するビジネスモデル」と定義しています。  

 

両者の特徴を整理すると、下表のようになります。 

    価値観  ビジネスモデル
リレバン

顧客本位

マーケットイン,地元密着

長期志向

従業員は資産

事業性評価貸出

企業の本業支援

対面取引

トラバン

規模追求・コストダウン

プロダクトアウト

短期志向

人件費はコスト

AI融資、スコアリング貸出

RPA、フィンテック活用

非対面取引

 

4. メインバンクにするならリレバン銀行  

 結論から言うと、リレーションシップバンキングを実践している銀行(リレバン銀行)が、メインバンクに相応しいと筆者は考えています。

 リレバン銀行は、企業との信頼関係を構築しながら、「経営者を見て、事業を見て、カネを貸す」というスタイルを取る、昔ながらの銀行と言えるでしょう。雨が降っても傘を貸してくれる、徹底した顧客本位の銀行と言えます。

 一方、トラバン銀行は、AIやフィンテックを駆使し、利便性の高い商品・サービスを提供しますが、個々の取引の採算を重視するため、ドライな関係で、取引が単発で終わりがちになります。ネット銀行などがそのイメージに近いと言えます。

 資金調達に苦労しない平時であれば、トラバン銀行が便利でしょうが、今のような有事(戦時)であれば、親身に相談に乗ってくれ、資金繰りを支えてくれるリレバン銀行が頼りになります。

  ところが、ここ数年、AIやフィンテックがもてはやされ、トラバン銀行を目指す金融機関が増えており、リレバン銀行は分が悪いと言えます。トラバン銀行に押され、一部の地銀、信金信用組合を除いて、本気でリレバンに取り組んでいる銀行が減りました。これが中小企業金融の大きな問題点の一つです。

 

 最後に、リレバン銀行の代表例として、第一勧業信用組合をご紹介します。同組合の新田信行理事長は、インタビュー記事(2017年5月30日 週刊エコノミスト)で次のように仰っています。リレバンの核心を的確に表現したご発言です。

 「融資には三つのやり方があります。一つ目は決算書から財務分析をして格付けをする。二つ目は、ノンバンクや質屋のように担保を取る。三つ目が人を見て貸す、です。私たちは信用供与の源泉が格付けでもなく、担保でもなく、フェイストゥフェイスの人間関係がベースになっています。

 「人と事業を徹底的に見ます。他の金融機関からは、「格付けもせず、担保も取らずによく融資をしますね」と言われますが、私からすると、「社長に会わず、工場も見ないでどうやってお金を貸すのですか」ということです。信用組合のお金は組合員のものですからリスクは取れません。ひたすら汗をかいて、社長や工場や製品・サービスを見るしかありません」

 

                                   以 上